G&U技術広報誌vol.13

公 共 投 資ジ ャ ー ナ ル 社 G&U技術研究センタ ー G&U GU Ground and Underground 都市の安全と安心を科学する技術広報誌 Grounda G and Underground 2 0 2 3 Vol.13 Ground and Underground 下水道用鋳鉄製マンホール蓋 防食性能を新たに規定 JSWAS G-4改正 ―金属材料の防食技術―

2023 Vol. 13 C O N T E N T S Introduction Close UP JSWAS G-4改正 ―金属材料の防食技術― Part 1 下水道用マンホール蓋規格改正「JSWAS G-4-2023」 表紙の画像提供:PIXTA 8 マンホール蓋の防食性能を規定化した 「G-4」の改正 公益社団法人日本下水道協会 常務理事 中島 義成氏 2 下水道管路における 金属材料の腐食の問題と対策 国土交通省 水管理・国土保全局 下水道部 下水道事業課 事業マネジメント推進室長 岩﨑 宏和 氏 12 【解説】G-4改正のポイント マンホール蓋の防食性能と その試験・評価方法 一般社団法人日本グラウンドマンホール工業会

Introduction 2 2023 vol.13 G&U 近年、金属材質の下水道管路の腐食に起因 する道路陥没が増えています。なかでも、ダ クタイル鋳鉄管を用いた圧送管の腐食は大規 模な事故につながる可能性があり、対策が求 められています。こうした背景から国土交通 省では、平成27年度の法改正で維持修繕基準 を創設し、腐食のおそれの大きい箇所の法定 点検を義務づけるとともに、28年度には下水 道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェク ト)で圧送管調査技術の実証を行うなどして います。 同省水管理・国土保全局下水道部下水道事 業課の岩﨑宏和・事業マネジメント推進室長 に、下水道管路の腐食の問題と、その対策に ついてご解説いただきました。 大規模陥没事故につながる圧送管の腐食 令和4年度には2件の事故が発生 令和3年度末時点で、全国の下水道管路の 総延長は49万kmにのぼっています。一方で 老朽化も進行しており、3年度には下水道管 路の不具合に起因した陥没事故が約2700件発 生しています。大半は深さ50cm程度の浅い ものですが、大規模な陥没事故も含まれてい ます。約2700件の内訳は、取付管由来が約 1700件と6割を占め、圧送管を除く本管由来 が約500件、人孔由来が118件、圧送管由来が 8件です。 圧送管は件数こそ多くないですが、大規模 な陥没事故につながる可能性があります。国 交省では下水道管理者に対し、人身事故など、 報道につながるような大規模な陥没事故が発 生した場合は報告するよう求めています。令 和4年度は9件の陥没事故報告があり、この うち2件は圧送管由来のものでした。 1件目は6月にS県の流域下水道で起こっ た事故です。偶然にもG&U技術研究センタ ーのすぐ近くなのですが、国道の歩道でダク タイル鋳鉄管の圧送管、口径500mmが硫化 水素に起因して腐食し、直径約1.5m、深さ約 3mの道路陥没が発生しました。人身事故も 起き、自転車で信号待ちをしていた男性が穴 に落下して怪我を負いました。この圧送管は、 下水道管路 における 金属材料の腐食の 問題と対策 岩﨑 宏和 氏 国土交通省 水管理・国土保全局 下水道部 下水道事業課 事業マネジメント推進室長

3 2023 vol.13 G&U 末端の圧力開放区間に位置しており、平成5 年度の施工から29年が経過、内面はモルタル ライニングされたものでした。 2件目は別の県の流域下水道で7月に発生 した陥没事故です。人的被害こそなかったも のの、圧送管末端の自然流下区間で直径約1 m、深さ約3mの陥没が発生しました。こち らの圧送管は平成9年度の布設から25年が経 過しており、内面は同様にモルタルライニン グされたものでした。 維持修繕基準で腐食箇所の点検義務化 圧送管の腐食リスクも周知 国交省では、予防保全を中心とした維持管 理や更新を実現するため、平成27年度の下水 道法改正で、新たに下水道の維持修繕基準を 創設しました。機能維持のために点検や清掃 等の必要な措置を講ずることが明記されたほ か、腐食するおそれが大きい排水施設は、5 年に1回以上の頻度で点検する義務が法定化 されています。点検義務の対象となる排水施 設は、コンクリートなどの腐食しやすい材料 でつくられた管渠やマンホールで、落差や段 差が大きい箇所や硫化水素が発生しやすい箇 所とされています。 その後、先述した令和4年度に発生した圧 送管由来の陥没事故を踏まえ、同年9月に事 務連絡「圧送管における自由水面を有する区 間での適切な施設管理について」を発出しま した。圧送管の縦断勾配により、空気弁付近 や末端側は自由水面を有する区間になります。 そのため硫化水素が発生してしまい、モルタ ルライニングのダクタイル鋳鉄管が腐食しま す。こうしたことから、圧送管における自由 水面を有する区間も腐食のおそれが大きい箇 所に該当する場合があることを、あらためて 周知しています。 法定点検1巡目はすべての団体で完了 「緊急度Ⅰ」はすみやかな対応を 腐食のおそれが大きい管路施設の点検状況 については、毎年度、「下水道管路メンテナ ▲ 供用開始から29年を経過した圧送管(ダクタイル鋳鉄管)にお いて、腐食に起因した損傷による道路陥没事故が発生した(令和 4年6月)

4 2023 vol.13 G&U ンス年報」に取りまとめ、公表しています。 平成28年度から令和2年度までの5年間は、 法定点検の1巡目にあたっており、全国の事 業主体からの報告によると、すべての団体で 1巡目の点検が完了済みです。点検を実施し た管路が3978kmで、このうち約13%にあた る532kmで異状を確認しました。同様に、マ ンホール11万6603ヵ所のうち約10%の1万 1219ヵ所でも異状が見つかっています。 令和3年度の下水道管路メンテナンス年報 によると、全国の腐食のおそれの大きい管路 延長は3257kmで、これは全国の管路延長49 万kmの0.66%にあたります。一方、マンホー ルは9万3814ヵ所です。このうち令和3年度 の1年間で実施された点検は管路が620km、 マンホールが1万9874ヵ所です。点検実施率 は前者が19%で後者が21%となっています。 5年に1回の点検ということを踏まえると、 妥当な実施率であると考えています。 点検の結果、10%の管路と7%のマンホー ルで異状が発見されました。異状が発見され た箇所は修繕等の対応を行う必要があります。 特に「緊急度Ⅰ」と判定された管渠について は、すみやかな修繕等の措置を求めています。 緊急度Ⅰの管渠を対策時期別に見ると、令和 3年度が5%、4年度が2%、5年度が93% となっています。緊急度Ⅰに判定された管渠 については、あらためて下水道管理者にすみ やかな措置をお願いしたいと思います。修繕 等の対応に加え、腐食しない材料への布設替 えや更生も有効です。 マンホール蓋も腐食のおそれあり 適切な点検と防食蓋への更新など対策を 腐食のおそれが大きい管路施設の法定点検 に関して、2点補足します。1点目はマンホ ール蓋についてです。マンホール蓋は腐食の おそれが大きい排水施設の対象に含まれてい ませんが、蓋の裏側が腐食する場合がありま す。硫化水素に起因する硫酸による腐食に加 え、結露のように水と酸素が存在するだけで も腐食が発生します。マンホール蓋について も適切に点検を行い、その結果、腐食してい るようであれば、防食蓋に置き換えるなどの 措置をお願いしたいと思います。 2点目は点検の対象範囲についてです。事 ▲S県における道路陥没箇所の縦断面図。陥没箇所は圧送管の吐出し先の上流部。自由水面を有する区間であり、腐食が起こりやすい環境であった 汚水の流れ 圧送開放部 圧送区間 圧送管吐出し先 段差部 汚水の流れ 埋設物 陥没箇所 マン ホール ■ 平成28~令和2年度(1巡目)の点検実施状況 (出典:令和2年度下水道管路メンテナンス年報(国土交通省)) 集計区分 対象数 点検実施数 点検実施率 点検実施数(累計)点検実施率(累計) マンホール(箇所) 116,603 33,825 29.0% 116,603 100.0% 管 渠( ㎞ ) 3,978 1,128 28.4% 3,978 100.0%

5 2023 vol.13 G&U 業計画に主要な管渠(下水排除面積が20ha以 上の管渠)の点検を行うためのマンホール数 を記載することになっているのですが、その ためなのか、主要な管渠のみ点検すればよい と誤認している自治体があるようです。腐食 のおそれが大きい箇所は、主要な管渠に限ら ず、漏れがないよう5年に1回以上の点検を 確実に実施していただきたいと思います。 B-DASHで圧送管の調査技術を実証 机上で危険箇所を抽出し専用カメラで調査 これまで圧送管は「点検調査機材を入れる ための開口部がない」「基本的に常時満流」「1 スパンが数kmにおよぶ」などの構造上の特性 から、調査が困難で、時間計画保全とされて いました。しかし近年は、先述のとおり、内 面モルタルライニングのダクタイル鋳鉄管が 使用された圧送管路で、硫化水素に起因する 硫酸腐食によって漏水や道路陥没の事故が報 告されており、圧送管の維持管理においても 予防保全によるストックマネジメントが求め られています。 こうした状況を踏まえ国交省は、平成28年 度のB-DASHプロジェクトにおいて、「下水 圧送管路における硫化水素腐食箇所の効率的 な調査・診断技術に関する研究」を採択し、 平成30年3月にその実証研究の結果をガイド ラインとして取りまとめました。私はちょう ど国土技術政策総合研究所(国総研)の下水 道研究室長として、実証事業とガイドライン の取りまとめに関わっており、思い入れがあ る技術の1つです。 ガイドラインは、①机上スクリーニングに よる腐食危険推定箇所の抽出、②圧送管路の 空気弁から実際にカメラを挿入して行う管内 調査、の大きく2つの技術で構成されていま す。 技術の流れを説明します。圧送管などの嫌 気的な環境では、汚水中の硫酸塩が硫酸塩還 元細菌によって硫化水素に還元されます。硫 化水素はコンクリートの表面にある結露水や 飛沫などの水分に溶解し、好気的な条件のも とで硫黄酸化細菌によって酸化されることで 硫酸が生成されます。この硫酸がコンクリー トなどの腐食を引き起こす原因です。 このため満管で流れる圧送管では硫酸腐食 が発生しませんが、非満流箇所や圧送ポンプ の間欠運転によって空気が入る箇所は腐食の ▲腐食したマンホール蓋 ■ 令和3年度の点検結果(出典:令和3年度下 水道管路メンテナンス年報(国土交通省)) 異状なし 18,417箇所 93% 異状あり 1,457箇所 7% 異状なし 559.0 km 90% 異状あり 60.9 km 10% マンホールの点検結果 管渠の点検結果 点検実施数 マンホール 19,874箇所 点検実施数 管渠 620km ■ 令和3年度に「緊急度Ⅰ」と判定された 管渠の対策状況(出典:同上) R3対策済 0.1km 5% R4 0.1km 2% R5~ 2.7km 93% 緊急度Ⅰ 2.9km

6 2023 vol.13 G&U 危険があります。そこで圧送管の縦断データ と動水勾配等から、満流か非満流かを判定し、 非満流かつ内面モルタルライニングの箇所を 腐食の危険があるとして抽出します。これが ①の机上スクリーニングです。 続いて抽出した箇所は、空気弁から圧送管 専用のカメラを挿入して管内の調査を行い、 劣化度を判断、評価します。これが②の調査 技術で、専用カメラは管頂側約180度の範囲 を撮影でき、空気弁(φ75mm)から挿入でき るほど小型な形状が特長です。 エポキシ樹脂粉体塗装の優位性にも言及 ガイドラインでは、ダクタイル鋳鉄管の管 内面防食方法として、エポキシ樹脂粉体塗装 の優位性についても言及しています。現在出 荷されているダクタイル鋳鉄管はエポキシ樹 脂粉体塗装が使用されたものが主流となって いると聞いていますが、これが調査によって 優れた防食性能を有していることが確認でき ました。 圧送管の中には、モルタルライニングによ る区間と、エポキシ樹脂粉体塗装による区間 が組み合わされている場合があります。モル タルライニングからエポキシ樹脂粉体塗装へ 変わる過渡期に布設されたものが多いようで す。こうした箇所を計6ヵ所調査した結果、 いずれも、モルタルライニング区間は激しく 腐食している一方で、エポキシ樹脂粉体塗装 区間は腐食が見られず健全でした。 加えて、自治体へのアンケート調査も行い ました。エポキシ樹脂粉体塗装の圧送管に関 しては、布設から23年以上経過しても腐食の 問題が全く発生していないという結果が得ら れました。 圧送管の腐食箇所の着実な点検を 民間の技術開発や創意工夫にも期待 下水道管理者に対しては、繰り返しになり ますが、圧送管などの腐食のおそれが大きい 箇所について適切な管理をお願いしたいと思 います。特に内面モルタルライニングのダク タイル鋳鉄管を使用する圧送管で、大規模な 陥没事故が複数発生しています。この内面モ ルタルライニングのダクタイル鋳鉄管は、平 成一桁台に布設された圧送管で使われている 例が多いようです。 8年前のことですが、私が京都府に出向し、 水環境対策課長を務めていたとき、所管の流 域下水道の圧送管で汚水噴出事故を経験して います。これも平成一桁台、平成5年度に布 ▲ 内面モルタルライニングが行われたダクタイル鋳鉄管の腐食状 況(圧送管圧力解放箇所。出典:国土交通省提供資料) ▲ガイド挿入式カメラを使った調査風景(出典:同上) ガイド カメラ ガイド挿入式カメラ 空気弁室 カメラヘッド部 ▲ 机上スクリーニングによる腐食危険推定箇所の抽出イメージ (出典:国土技術政策総合研究所記者発表資料) (空気弁) (空気弁) 流れ方向 圧送管路 動水こう配線 吐出し先 マンホール 流れ方向 動水時(ポンプ稼働時)の下水 静水時(ポンプ停止時)の下水 腐食危険推定箇所 A A P 動水こう配線

7 2023 vol.13 G&U P R O F I L E【いわさき・ひろかず】 平成9年3月東京工業大学大学院修了。同年4月建設省入省。平成26年4月京都府文化環 境部水環境対策課長、28年4月国土交通省下水道部下水道事業課企画専門官、29年4月国 土技術政策総合研究所下水道研究部下水道研究室長、31年4月宮城県企業局技監兼次長、 令和3年4月日本下水道事業団国際戦略室長、5年4月より現職。 ■B-DASHプロジェクトにおける管内面状況の調査結果の一例 (出典:下水道圧送管路における硫酸腐食箇所の効率的な調査技術導入ガイドライン(案)(国土技術政策総合研究所)) 管内面 防食方法 モルタルライニング (直管) エポキシ樹脂粉体塗装 (異形管) 劣化度 Aランク(重度) 異常なし 内面 状況 空気弁から下流側4m 空気弁から下流側5m ■実管路(非満流箇所)での調査結果(出典:同上) 事業体 管径(㎜) 直管 異形管 管内面 防食方法 調査結果 管内面 防食方法 調査した 個数 調査結果 I流域下水道 200 モルタル ライニング 管内面が激しく 腐食、3事業体 では事故発生 エポキシ樹脂 粉体塗装 4 管内面に腐食は みられず健全 J市 600 5 L市 450 2 D市 600 8 E市 350 1 下水道事業団※1 200 1 ※1 送泥管での調査結果 設したモルタルライニングのダクタイル鋳鉄 管でした。こうした圧送管は、先ほど紹介し たガイドラインの調査技術を用いるなどして、 着実に5年に1回の点検をお願いしたいです ね。 一方、民間企業には、引き続きガイドライ ンの圧送管調査技術のような管路管理技術の 開発を期待しています。また国では、コンセ ッションや包括委託レベル3.5の「ウォーター PPP」を推進しています。管路管理の場面に おいても、民間の創意工夫を生かした対策が 進んでいくことを期待しています。

Close UP Part 1 下水道用マンホール蓋規格改正「JSWAS G-4-2023」 8 2023 vol.13 G&U 今年5月に日本下水道協会規格の「下水道用 鋳鉄製マンホール蓋」(JSWAS G-4-2023:以 下、G-4)が改正され、腐食環境に適用するマ ンホール蓋の防食性能が規定化されました。 規格を制定した(公社)日本下水道協会の中 島義成常務理事に改正の背景やねらい、防食 性能の試験方法などを伺いました。 蓋の腐食による劣化や不具合が顕在化 重大な人身事故につながるリスクも ――規格改正の背景やマンホール蓋に防食性 能が望まれる理由について教えてください。 全国の下水道普及率は令和4年度末で 81.0%に達しました。下水道に早くから着手 した大都市などでは経年化した施設が増え、 管路施設においてもマンホール蓋の腐食に起 因する劣化や不具合が顕在化しています。 マンホール蓋は、マンホール内で発生した 硫化水素の影響により、蓋の裏側の腐食が進 行しやすいと言われています。腐食した蓋は 製品自体が減肉して薄くなるほか、がたつき や嵌合部の段差などが発生する可能性があり ますし、錠や蝶番などの安全上必要な機能部 品についても、脱落や欠損などの不具合が起 公益社団法人日本下水道協会 常務理事 中島 義成 氏 マンホール蓋の 防食性能を規定化した 「G-4」の改正 ▼「 G-4」の目次イメージ。枠内が 今回の改正で追加された項目 目 次 下水道用鋳鉄製マンホール蓋 1.適用範囲 2.種類 3.品質 ・ ・ ・ [附属書1]転落防止装置 [附属書2]防食性能 下水道用鋳鉄製マンホール蓋 解説 [附属書1]転落防止装置 解説 [附属書2]防食性能 解説 参考資料 [参考資料1]鋳鉄製マンホール蓋性能別設置基準(例) [参考資料2]鋳鉄製マンホール蓋の施工上の留意事項 [参考資料3]鋳鉄製マンホール蓋性能確認試験 [参考資料4]使用環境を想定した防食性能試験(参考)

9 2023 vol.13 G&U きるおそれがあります。また、蓋が腐食する と受枠と固着してしまい、開閉が困難になっ て、維持管理に支障が出る場合もあります。 私自身も以前、東京都で現場の管理部門を 務めていたときに、道路上のマンホール蓋が 飛散する事故を経験しました。幸いにも大事 には至りませんでしたが、こうした事態は避 けなければならないと、身をもって感じまし た。 こうした不具合の改善や未然防止を目的に、 近年、防食性能を有したマンホール蓋のニー ズが高まっていました。日本下水道協会では 令和5年5月にマンホール蓋の規格である 「G-4」を改正し、腐食環境に適用できる防食 性能を新たに規定化したところです。 なお、平成27年度に下水道法が改正され、 ■腐食環境下のマンホール蓋の注意点 特に、腐食環境下にあるマンホールふたが受枠から若干 でも浮上がり傾向にあるものは、ふたと受枠の腐食が進 んでいる状態であり、受枠の棚部の状態が良好であって も、ふたの反転、飛散につながる可能性が非常に高い事か ら、特に注意を払う必要がある。(『下水道維持管理指針』 ((公社)日本下水道協会)より引用) ■一般塗装におけるⅡ類相当箇所における腐食状況(出典:G-4) 期間 1年後 3年後 5年後 17年後 ■防食表面処理におけるⅡ類相当箇所における腐食状況(出典:同) 期間 1年後 3年後 5年後 17年後 マンホールふた 受枠 受枠棚 蓋と受枠の急勾 配面(支持面) サビ等により隙 間ができると蓋 が安定しない (表-17) (表-18) (表-17) (表-18) (写1) 蓋 表 面蓋 裏 面蓋 表 面蓋 裏 面

Close UP Part 1 下水道用マンホール蓋規格改正「JSWAS G-4-2023」 10 2023 vol.13 G&U 第7条の二(公共下水道の維持又は修繕)が 新設されました。これに関連して、下水道法 の施行令および施行規則において、「公共下 水道又は流域下水道の維持又は修繕に関する 技術上の基準等」も規定されました。これら の法律上の観点からも、管渠やマンホールと 同様、マンホール蓋に対しても新たに防食性 能を規定化する必要があったと考えています。 実地試験もとに防食性能の有効性を確認 使用実態考慮し、傷のある状態での試験も ――防食効果はどのように評価・確認したの でしょうか。 (一社)日本グラウンドマンホール工業会 が行った腐食環境下での実地試験結果を確認 しました。一般塗装のマンホール蓋と、防食 性能を有する蓋(防食蓋)をⅡ類相当の箇所 に設置した場合、一般塗装の蓋には明らかに 減肉を伴う腐食が見られた一方で、防食蓋に 著しい腐食は見られませんでした。このこと から、少なくともⅢ類相当の防食性能で有効 であると評価しました。 一方、現場ではマンホール蓋の開閉時に生 じた傷から腐食が進行することも想定されま す。こうした使用実態を考慮し、塗装した後 に表面に傷を付けた供試体による防食試験の 結果も確認しました。この試験に関しては、 「参考資料」という扱いで規格に掲載してい ます。試験では、防食塗装を施した供試体に 傷を付けた場合と、防食性能がない一般塗装 の供試体に傷を付けた場合を比較しました。 その結果、後者には明らかな赤錆の発生が認 められました。 また、腐食の進行状況を確認する1つの方 法として、マンホール蓋に付けた傷により母 材から溶出する鉄イオン量を計測した結果も 確認しました。鉄イオンの量が多ければ、腐 食が進行しているということになります。そ れによると、一般塗装の蓋は、防食蓋の2倍 以上の鉄イオンの溶出量がありました。こう したことからも、金属塗装や樹脂塗装による 防食塗装には腐食抑制効果があるものと考え られます。 JSのマニュアル準用、劣化状況を目視判定 pH1の硫酸水溶液に30日間浸漬 ――今回の改正で位置づけた防食性能の試験 方法について教えてください。 腐食環境下にあるマンホールの9割以上を 占める一般的な腐食環境を想定し、JSの「下 水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び 防食技術マニュアル」で示されている「防食 被覆工法の品質規格」でⅢ類に適用する試験 方法を参考にしています。防食蓋の塗装厚は P R O F I L E【なかじま・よしなり】 昭和57年4月東京都入庁(下水道局)。平成18年7月東京都下水 道局計画調整部計画課長、20年7月日本下水道事業団派遣(東日 本設計センター長)、22年7月東京都下水道局基幹施設再構築事 務所長、24年7月中部下水道事務所長、25年7月建設部長、29年 8月計画調整部長、30年4月流域下水道本部長を歴任し、31年3 月末に東京都を退職。令和元年6月より現職。

11 2023 vol.13 G&U おおむね0.5mm以下と、防食被覆工法での塗 布型ライニングより薄いことも考慮し、Ⅲ類 の品質規格として定められる「B種」の試験方 法を準用できると判断しました。 B種の試験は、塗装の割れやふくれ、剥が れ、赤錆などの劣化状況を目視で判定する方 法です。目視判定がしやすいように、あらか じめpH1の硫酸水溶液に30日間浸漬すること が定められています。ただ、pH1は塗装面の 劣化で赤錆が発生しても、溶かしてしまうほ ど強酸性の濃度です。そのため30日間浸漬後 に中性の硫酸ナトリウム水溶液に7日間浸漬 させることで、意図的に劣化した部分に赤錆 の発生を促し、目視による劣化状況の判定を 行うこととしています。 また、マンホール蓋の現物で試験を行うに は多量の硫酸水溶液が必要となるため、試験 では供試体(試験を行う部材)を使うこと、端 部やエッジ部の傷で試験結果に影響が出ない よう、供試体にマスキングを行うことも定め ています。 耐久性、安全性、維持管理性の向上へ 防食性能を有するマンホール蓋の採用を ――今回の規格改正に関し、事業体へ期待す ることを教えてください。 現在、全国のマンホール蓋は約1600万基あ ると言われています。一方、全国の下水道管 路施設のうち5~10%は腐食環境下にあると いう調査結果があり、潜在的な腐食環境箇所 はそれ以上、存在することも想定されます。 蓋の長寿命化や劣化による事故防止の観点か らも、安全・安心な資器材の運用を積極的に 検討いただきたいと思います。 今回、「G-4」を改正し、防食性能を新たに 規定化したわけですが、防食蓋を採用するこ とで、耐久性、安全性、維持管理の向上が期 待できます。ぜひ事業体にもご活用いただけ ればと考えています。 (図-9) 資 図2 浸漬試験方法 ▲供試体の浸漬試験方法(出典:同) (表-17) (表-18) (写1) ▲供試体の浸漬状況(出典:同) ▲供試体のサイズ、マスキング範囲(出典:同) (図-8) (図-9) 資料3 図2 浸漬試験方法 マスキング幅 5〜10㎜程度 吊り穴 (参考:70㎜以上) 50㎜以上 (参考:75㎜以上) 50㎜以上 ※マスキングは、供試体の縁部及び吊り穴部を覆うこと。 :マスキング箇所

Close UP Part 1 下水道用マンホール蓋規格改正「JSWAS G-4-2023」 12 2023 vol.13 G&U 八 校 ダイヤモンド・グラフィック社 今年5月に改正された日本下水道協会規格 の「下水道用鋳鉄製マンホール蓋」(JSWAS G-4-2023:以下、G-4)では、これまで統一的 な基準がなかった「マンホール蓋の防食性能」 が初めて規定化されました。改正に際しては、 事業体や業界団体によるワーキンググループ 「鉄系製品小委員会」が設置され、令和3年12 月から7回にわたり調査や審議を実施。規格 改正案のとりまとめを行っています。 同委員会で委員・幹事などを務めた(一社) 日本グラウンドマンホール工業会(以下、 JGMA)に、今回規定されたマンホール蓋の 防食性能と、その試験・評価方法をご解説い ただきました。 マンホール蓋の防食性能、業界標準化へ ―G-4改正の背景について、業界側からの 視点も交えてご説明をお願いします。 まず、平成27年に下水道法が改正され、維 持修繕基準が創設されたことが大きく関係し ています。改正により、腐食のおそれが大き い下水道施設を5年に1回点検することが義 務付けられました。事業体で点検が進む中で は管渠やマンホールの実態が明らかになり、 「マンホール蓋の腐食」にもスポットが当て られたことで、その対策を求める機運が高ま りました。 一方、防食性能を持つマンホール蓋(防食 蓋)に関しては、メーカー各社が技術開発・ 製品化を進め、ある程度実績を重ねてきまし たが、性能に関する統一的な基準はない状況 が続きました。これは事業体側からすると、 公正性という点で対外的な説明がしづらく、 防食蓋を採用する上での課題になっていたと 言えます。 日本下水道協会規格であるG-4では、マン ホール蓋の耐荷重性やがたつき防止、転落防 止、浮上・飛散防止などが性能規定されてい ますが、平成21年を最後に十数年間、改正が 行われていません。最近では「他の性能と同 じように防食性能も規定化してほしい」とい う声が事業体からも挙がるようになりました。 蓋を設計・開発している業界の立場としては、 規定化により製品をさらに進化させ、事業体 での採用を後押ししたいところですので、今 回、改正案の作成にご協力させていただきま した。 『防食技術マニュアル』に準拠 他の機能との両立を図り「Ⅲ類」に照準 ―鉄系製品小委員会の検討では、どのよう なことに留意されましたか。 【解説】G-4改正のポイント ▲JGMA技術広報委員会の広滝隆行委員長 マンホール蓋の防食性能と その試験・評価方法 一般社団法人日本グラウンドマンホール工業会

13 2023 vol.13 G&U まず、防食性能を客観的に試験・評価する 方法を検討する上で、参考にする指標を決め ました。これについては、下水道界で広く認 知されている『下水道コンクリート構造物の 腐食抑制技術及び防食技術マニュアル』(地方 共同法人日本下水道事業団編)に準拠するこ ととしています。 次に、防食性能のターゲットを定めました。 マンホール蓋の防食では、樹脂塗装や犠牲防 食などによる表面処理を行いますが、蓋の厚 みが増しますので、開閉性などの機能と両立 させることを考慮しなければなりません。下 水道施設の腐食環境の分類は、環境が厳しい 順にⅠ類、Ⅱ類、Ⅲ類とあり、むやみに過酷 な分類をターゲットにすると、製品として成 立させるのが難しくなるわけです。そこで今 回の改正では、「管渠内の腐食環境の約95% はⅢ類」とする論文※データを参考に、防食性 能の試験を行う一般的な腐食環境を「Ⅲ類」 に適合する条件としています。 試験方法に関しては、日本下水道協会規格 であることを踏まえ、特殊な機材などを用い ず、下水道協会の認定工場で実施できること を前提としています。先に述べたように試験 方法については『防食技術マニュアル』をよ りどころとしましたが、マンホール蓋に応用 するためには、様々な面からの検討を重ねま した。 なお、一般の蓋と防食蓋は、製造や納入、 施工・維持管理において混同されないよう、 「表示」という項目で「防食性能を有するマン ホール蓋であることを目視認識できること」 という条件が規定されています。 「本編試験」と「参考試験」を記載 ―G-4で示された「本編試験」と「参考試験」 の位置づけについて教えてください。 G-4は、強制力がある「本編」および「附属書」 と、「参考資料」で構成されています。今回は 附属書において、防食表面処理の性能を評価 する試験方法を規定しており、これがいわゆ る「本編試験」です。『防食技術マニュアル』 に準じて鋳鉄板の供試体(試験を行う部材) をpH1の硫酸水溶液に浸漬し、目視で赤錆の 発生を確認して劣化を判定します。 これに加え参考資料では、「使用環境を想 定した防食性能試験」が記載されました。こ ちらが「参考試験」です。マンホール蓋は維持 管理上、どうしても開閉が必要になりますの で、開閉作業を想定した操作で生じた傷に対 する、防食性能の試験方法となっています。 さらに腐食進行状態を確認するためには、赤 錆発生の目視確認に加え、供試体から溶出し た鉄イオン量で評価するという、新規性・独 自性の高い方法も記載されました。基準値の 考え方などは今後さらに検討が必要であるた め、今回は参考試験という扱いになりました が、使用環境を想定した試験方法が記載され た意義は業界としても大きいと考えています。 ▲ G-4の[参考資料 4]に「使用環境を想定した防食性能試験〈参 考〉」が示された ※「硫化水素発生状況の全国一斉調査事例」(管清工業㈱ 井川理、大西浩介、第55回下水道研究発表会)

Close UP Part 1 下水道用マンホール蓋規格改正「JSWAS G-4-2023」 14 2023 vol.13 G&U 八 校 ダイヤモンド・グラフィック社 専用の治具で開閉を想定した傷を付ける ―使用環境を想定した「参考試験」の方法 についてご説明をお願いします。 マンホール蓋の防食性能を評価する上では、 表面処理だけを対象とすると不十分となって しまい、やはり開閉に伴う磨耗傷の影響も考 慮することが不可欠です。しかし、実際に蓋 を開閉して傷を付けることは負担が大きいで すし、作業者によってバラつきも出てしまい ます。 そこで今回の改正に合わせては、防食表面 処理を施した供試体に開閉を想定した傷を付 ける、専用の治具を考案しました。 供試体に傷を付ける試験荷重は30㎏として います。一般的なマンホール蓋(耐荷重25t) の重量は40㎏で、蝶番に生じる荷重はその半 分の20㎏です。これに引っ掛かりなどの衝撃 を勘案して安全率1.5倍を乗じ、30㎏と設定し ました。また、傷を付ける回数は10回として います。これは、『下水道維持管理指針』((公 社)日本下水道協会)で示された「マンホール 蓋の巡視及び点検頻度の設定例」を参考に設 定しました。 鉄イオン量の評価には、「比色法」が採用さ れました。水溶液中に試験紙を入れ、変化し た色で鉄イオン濃度を簡便に測定できる方法 です。なお、供試体を浸漬する硫酸水溶液の 濃度は本編試験ではpH1ですが、参考試験で はpH3という設定です。pH1はかなりの強酸 のため赤錆が溶け出してしまい、赤錆の発生 状況の確認が困難になります。pH1だと溶出 する鉄イオン濃度の高くなり過ぎ、判定誤差 が大きくなるというデメリットもあるため、 参考試験ではpH3の硫酸水溶液を試験条件と しています。 ▲ 荷重を負荷し、供試体をスライド(出典:G-4) ▲傷を付けた供試体(出典:同) ■防食表面処理の試験結果(出典:同) 項目 一般塗装 防食表面処理 目視による 赤錆の確認 赤錆発生 赤錆なし 鉄イオン量 (mg)の測定 電着塗装 45 犠牲防食1 0.2 犠牲防食2 3.2 粉体塗装 40 樹脂 コーティング 0 ■30日浸漬後の鉄イオン量の測定結果 (G-4掲載データより作成) 防食表面処理 犠牲防食2 防食表面処理 犠牲防食1 防食表面処理 樹脂コーティング 一般塗装 粉体塗装 一般塗装 電着塗装 45mg 0mg 40mg 0.2mg 3.2mg

15 2023 vol.13 G&U 一般塗装の蓋に比べ、2倍以上の防食効果 ―防食蓋は一般塗装の蓋に比べ、どのくら いの防食性能があるのでしょうか。 メーカー各社が納入した防食蓋の定期モニ タリングなどの実績をもとにすると、防食蓋 は一般塗装のマンホール蓋に比べ2倍以上の 防食効果を有すると考えられます。さらに G-4では今回、参考試験として赤錆の確認と 水溶液中の鉄イオン量の測定結果が掲載され、 2倍以上の防食効果がデータとしても示され ました。また、今回の規定化ではⅢ類をター ゲットとしていますが、実地での設置実績で はそれよりも厳しいⅠ類やⅡ類の環境におい ても、一般塗装の蓋より高い防食効果が確認 されています。 G-4が防食蓋採用の後押しに ―最後に事業体や業界へのメッセージをお 聞かせください。 国家規格の「JIS A 5506」(下水道用マンホ ール蓋)では蓋の「設置要領」が示され、適材 適所の製品選定が求められています。防食蓋 も紹介されてはいますが、防食性能に関する 評価方法は示されていませんでした。今回、 G-4で防食性能が規格化されたことは、事業 体が防食蓋採用の説明責任を果たす上で、大 きな後押しになったと考えています。維持管 理時代が本格化する中、防食性能は非常に重 要です。今後は事業体をはじめ関係者の皆様 の評価をいただきながら、さらにマンホール 蓋の安全性能を高めるご提案ができるよう、 業界として技術開発・研究を進めていきたい と考えています。 ▲Ⅱ類相当箇所における設置後5年腐食状況(出典:同) 上:一般塗装、下:防食表面処理 ■マンホール蓋の設置要領の設定例 (出典:JIS A 5506 : 2018、表 C.1―マンホール蓋の設置要領の設定例(防食蓋の箇所を抜粋・引用)) 区分 種類 性能 適用箇所 特殊型 防食蓋 温泉地の水質が腐食環境又は管 路構造上の腐食環境に対して防 食被膜を施したもの。 温泉地及び管路構造上の腐食環境下(高温・腐食雰囲 気、圧送管吐出し先、ビルピットの排水先、伏越し下流 部、落差・段落のあるマンホールなど)。

Close UP Part 2 鉄蓋の腐食メカニズムと金属材料の防食技術 16 2023 vol.13 G&U 鋳鉄でつくられたマンホール蓋は、「腐食」と いうリスクを宿命的に背負っています。腐食 が発生し進行するメカニズム、過酷な下水道 環境の特殊性、蓋の腐食が引き起こす固着・ 段差といった課題への取り組みの状況などに ついて、横浜国立大学の岡崎慎司教授に伺い ました。 マンホール蓋を狙う2つの腐食メカニズム 過酷な下水道環境と結露が大きな影響力 ――下水道のマンホール蓋に腐食が発生し、 進行するメカニズムを教えてください。 マンホール蓋は鋳鉄製です。鉄をベースに した金属は、基本的にはどのような環境でも 腐食します。腐食は鉄の酸化反応の一種であ り、酸化して損耗していく進行状態が腐食過 程ということになります。 マンホール蓋の腐食には、酸素と水による 「中性腐食」と、酸による「酸性腐食」の2つ のメカニズムがあります。金属を酸化させる 原因物質は違いますが、どちらの腐食も水の 存在は絶対に必須です。 中性腐食は通常、中性環境下で生じます。 マンホール蓋に付着した結露などに溶け込ん でいる酸素が、塗装の傷や剥がれから母材に 到達すると、酸化作用を受けた母材の鉄が鉄 イオンになって水に溶け出していき、固形状 の錆(酸化鉄)になって析出します。 一方の酸性腐食は、下水道環境特有の硫化 水素に起因する腐食です。マンホール内の硫 化水素が蓋の結露に溶けると後述する微生物 の特殊な作用によって硫酸がつくられます。 すると結露のpH(水素イオン濃度)が低下し、 非常に厳しい酸性環境になるため、酸(水素 国立大学法人 横浜国立大学 工学研究院 機能の創生部門 固体の機能 教授/博士(工学) 岡崎 慎司 氏 マンホール蓋の 腐食メカニズム ▲ 酸素と水による「中性腐食」と、硫化水素に起因する「酸性腐食」 装」のうち「電着塗装」は、エ シ系やアクリル系などの塗料に し、高電圧をかけて被覆する方 、形状の複雑なところでも均一 装することが可能です。一方、 塗装」は、エポキシ系やアク 系などの樹脂を粉状のままエア などで吹き付けて被覆する方法 塗膜を厚くできることが特長で 被覆方法の用語ではありません 数百μm以上の塗装は「厚膜塗 と呼ばれることがあります。 っき」には「電気めっき」と「溶 っき」があり、膜厚を厚くでき 融めっきが防食用として多く使 れています。 射」は、溶融した金属を粒状の まま吹き付けて被覆する方法です。 粒と粒の間に空孔(空気の穴)がで きることから、粘度の低い塗料を染 み込ませて封孔処理を行うことが必 要になります。封孔処理の後にさら に塗装するのが一般的で、一種類の 塗料で封孔と塗装を同時に行う場合 もあります。 明確な基準はないものの、一般的 に被覆材の厚さが1mm以上のもの を「ライニング」と呼びます。「シ ートライニング」は、ポリエチレン やポリプロピレンなどの樹脂をシー ト状に成形して張り付ける手法です。 「常温硬化ライニング」では、エポ キシ樹脂やポリエステル樹脂などを 塗り、常温硬化させて皮膜を形成し ます。 材料置換では、耐食材料としてス テンレス鋼が多く使用されています。 また用途によっては、ニッケル合金 やチタン合金が使われることもあり ます。 上記の一般的な手法をベースにマ ンホールふたに適した被覆防食と材 質置換を検討する必要があります。 このほか、マンホールふたの防食 対策として、ふたの内側に「中ふた」 を設置する手法も採用されています。 管路内の環境とふた近傍の環境を遮 断することで、ふたの裏面と硫化水 素との接触が避けられ、腐食を抑制 することが期待できます。 また、塩害等が懸念される場合は、 ふた表面に防食対策等を施す場合が あります。 マンホールふたの腐食メカニズム 水分が存在する環境で腐食は進行 マンホールふた裏面の腐食は、「硫 化水素を起因とする酸による腐食 (酸性腐食)」と「酸素と水による腐 食(中性腐食)」に分けることがで きます。両者に共通しているのは結 露が生じることです。水分が存在し ない環境下では腐食は進行しません。 酸性腐食とは、下水環境特有の硫 化水素を起因とした腐食のことです。 酸による腐食では、結露水中に硫化 水素が溶けこみ、硫黄酸化細菌の働 きで硫酸が生成します。硫酸は水素 イオンと硫酸イオンに解離し、腐食 原因物質である水素イオンが防食層 へ浸透して、母材(鋳鉄)まで到達 すると腐食が始まります。母材の表 面には酸化鉄などが生成し、赤錆で 表面が覆われた状態になるのです。 一方、中性腐食とは、金属特有の 酸素と水のある環境下の腐食のこと です。酸素と水による腐食では、結 露で生成した水膜中に酸素が溶け込 み、これが腐食原因物 質となって防食層へ浸 透します。溶存酸素が 母材まで到達すると、 溶存酸素還元反応によ る腐食が進行し、母材の表面は赤錆 で覆われた状態になります。 環境の腐食性をモニタリングする ためには、腐食が起きると流れる電 流(腐食電流)を計測する「ACM センサ」が活用されています。硫化 水素濃度や温度・湿度なども同時に 測り、それらと腐食電流の相関関係 を見ることが可能です。上のグラフ では、前半の結露がない時は0.001 μA以下であり、後半に結露が発生 すると電流が増加して10μA以上に なっています。5日経過以降、再び 結露がなくなると急激に電流が低下 しており、結露の発生が腐食に影響 していることが、如実に見て取れま す。 明確な性能評価の基準化が課題 設置基準を整備する必要も マンホールふた裏面の腐食対策に 関する今後の課題としては、明確な 性能 現 は各 が積 金 てい マン 働き ふた 効な 腐 こと にお に関 した いま も、 の整 マ 造物 腐食 生し せん る環 どを 設置 ます 腐食 ての りま くだ の 対策事例 スクを引き起こします。た ると歩行者の支障となり、 ねません。錠や蝶番が腐食 飛散する危険性が高まりま ることで、改築サイクルが がるものと考えます。 ルふたの腐食対策をご紹介 食対策に関する今後の方向 ふたの 理 ■ 被覆防食工法の断面構造 ▲腐食が進んだマンホールふた ▲ACMセンサ 遮断 属な る 遮断 属な る い金 、腐食 塗装 厚膜塗装 金属めっき+塗装 金属溶射+塗装 母材 母材 母材 母材 塗装 30~100㎛ 塗装 30~100㎛ 塗装 30~100㎛ 金属めっき 30~100㎛ 金属溶剤 50~200㎛ 厚膜塗装 200~1000㎛ 【執筆】 研究開発部 宮田 義一 ▲結露は外気温(蓋の表)と管路内(蓋の裏)の気温差によって発生しやすい 塗膜に傷やはがれがあるとより腐食が進行する ※「下 及び 人日 道事 ▲ACMセンサ 結露の発生が 測定時期:夏 腐食 0.0001 0.001 0.01 0.1 1 10 100 0 1 2 結露 腐食電流( ㎂) 硫化水素濃度 ( )

17 2023 vol.13 G&U イオン)による腐食を引き起こします。 もちろん、中性環境下であっても酸素があ れば酸化力は働きますから、中性腐食と酸性 腐食、両方の組み合わせで進むとも言えます。 どちらが優勢的に起きるかは環境側のpHが 左右しますが、酸性腐食の方がより短期間で 激しいダメージを母材に与えます。 ――硫化水素の存在とマンホール蓋の結露が 大きな影響を及ぼすのですね。 硫化水素の濃度やpHは、マンホールの場 所ごとに大きく異なります。普通に下水が流 れている場所では、都市部でも濃度はそれほ ど高くありませんが、圧送管の吐出し口など 滞留した汚水が一気に排出されるような場所 は、時には50ppmを超える高い濃度になりま す。 下水中の汚濁物質に存在する細菌類の中で、 硫酸塩還元菌という細菌が硫化水素を生成す るのですが、さらにその硫化水素に硫黄酸化 細菌が作用して硫酸をつくります。硫酸がで きると、溶液のpHは1程度まで下がり、非常 にシビアな腐食環境になります。 また、水がなければ腐食反応は起きません から、結露はいちばん厄介な存在だと言えま す。マンホール内部は多くの場合、湿度が高 くジメジメしていますから、地表側とマンホ ール内の温度差により、マンホール蓋の裏面 にたびたび結露が生じま す。 G&Uさんがすでに研 究で明らかにされていま すが、マンホールの中の 湿度は腐食反応に大きな 影響を及ぼします。特殊な電極構造を用いて、 その腐食によって生じる電流から大気腐食の リスクを測定・評価できる「ACMセンサ」と いうセンサがあります。これを実際のマンホ ール蓋に設置し、結露が発生している時期と 発生していない時期の腐食電流を計測した結 果、同じマンホールでも前者は後者の105倍 以上の高い電流値となりました。硫化水素濃 度が低くても結露が生じると、海岸付近での 腐食に相当する腐食電流が流れることが確認 されています。 蓋の腐食は一定の速度で進行し続ける ――腐食の量や速度はどのように変化してい くのでしょうか。 これもG&Uさんが長年研究されている成 果を公表されていますが、下水道環境では鉄 系材料の腐食量は経過時間に比例して増大し、 腐食速度はずっと一定であることがわかって います。つまり、腐食反応はいつまでも、鈍 ▲ACMセンサ まま吹き付けて被覆する方法です。 粒と粒の間に空孔(空気の穴)がで きることから、粘度の低い塗料を染 み込ませて封孔処理を行うことが必 要になります。封孔処理の後にさら に塗装するのが一般的で、一種類の 塗料で封孔と塗装を同時に行う場合 もあります。 明確な基準はないものの、一般的 に被覆材の厚さが1mm以上のもの を「ライニング」と呼びます。「シ ートライニング」は、ポリエチレン やポリプロピレンなどの樹脂をシー ト状に成形して張り付ける手法です。 「常温硬化ライニング」では、エポ キシ樹脂やポリエステル樹脂などを 塗り、常温硬化させて皮膜を形成し ます。 材料置換では、耐食材料としてス テンレス鋼が多く使用されています。 また用途によっては、ニッケル合金 やチタン合金が使われることもあり ます。 上記の一般的な手法をベースにマ ンホールふたに適した被覆防食と材 質置換を検討する必要があります。 このほか、マンホールふたの防食 対策として、ふたの内側に「中ふた」 を設置する手法も採用されています。 管路内の環境とふた近傍の環境を遮 断することで、ふたの裏面と硫化水 素との接触が避けられ、腐食を抑制 することが期待できます。 また、塩害等が懸念される場合は、 ふた表面に防食対策等を施す場合が あります。 マンホールふたの腐食メカニズム 水分が存在する環境で腐食は進行 マンホールふた裏面の腐食は、「硫 化水素を起因とする酸による腐食 (酸性腐食)」と「酸素と水による腐 食(中性腐食)」に分けることがで きます。両者に共通しているのは結 露が生じることです。水分が存在し ない環境下では腐食は進行しません。 酸性腐食とは、下水環境特有の硫 化水素を起因とした腐食のことです。 酸による腐食では、結露水中に硫化 水素が溶けこみ、硫黄酸化細菌の働 きで硫酸が生成します。硫酸は水素 イオンと硫酸イオンに解離し、腐食 原因物質である水素イオンが防食層 へ浸透して、母材(鋳鉄)まで到達 すると腐食が始まります。母材の表 面には酸化鉄などが生成し、赤錆で 表面が覆われた状態になるのです。 一方、中性腐食とは、金属特有の 酸素と水のある環境下の腐食のこと です。酸素と水による腐食では、結 露で生成した水膜中に酸素が溶け込 み、これが腐食原因物 質となって防食層へ浸 透します。溶存酸素が 母材まで到達すると、 溶存酸素還元反応によ る腐食が進行し、母材の表面は赤錆 で覆われた状態になります。 環境の腐食性をモニタリングする ためには、腐食が起きると流れる電 流(腐食電流)を計測する「ACM センサ」が活用されています。硫化 水素濃度や温度・湿度なども同時に 測り、それらと腐食電流の相関関係 を見ることが可能です。上のグラフ では、前半の結露がない時は0.001 μA以下であり、後半に結露が発生 すると電流が増加して10μA以上に なっています。5日経過以降、再び 結露がなくなると急激に電流が低下 しており、結露の発生が腐食に影響 していることが、如実に見て取れま す。 明確な性能評価の基準化が課題 設置基準を整備する必要も マンホールふた裏面の腐食対策に 関する今後の課題としては、明確な 断面構造 ▲腐食が進んだマンホールふた ▲ACMセンサ 膜塗装 金属めっき+塗装 金属溶射+塗装 母材 母材 母材 塗装 30~100㎛ 塗装 30~100㎛ 金属めっき 30~100㎛ 金属溶剤 50~200㎛ 膜塗装 1000㎛ ▲結露は外気温(蓋の表)と管路内(蓋の裏)の気温差によって発生しやすい 塗膜に傷やはがれがあるとより腐食が進行する ▲A 結 0.0001 0.001 0.01 0.1 1 10 100 0 ■マンホール内の年間平均硫化水素濃度 年間平均硫化水素濃度(ppm) 0 10 20 30 40 50 60 70 0 0.3 0.2 0.6 0.1 5 65 55 21 24 15 30 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 商業地域ビル街 圧送管吐出口下流 人孔番号 ■ACMセンサで計測した腐食電流と結露の関係 対策として、ふたの内側に「中ふた」 を設置する手法も採用されています。 管路内の環境とふた近傍の環境を遮 断することで、ふたの裏面と硫化水 素との接触が避けられ、腐食を抑制 することが期待できます。 また、塩害等が懸念される場合は、 ふた表面に防食対策等を施す場合が あります。 マンホールふたの腐食メカニズム 水分が存在する環境で腐食は進行 マンホールふた裏面の腐食は、「硫 化水素を起因とする酸による腐食 (酸性腐食)」と「酸素と水による腐 食(中性腐食)」に分けることがで み、これが腐食原因物 質となって防食層へ浸 透します。溶存酸素が 母材まで到達すると、 溶存酸素還元反応によ る腐食が進行し、母材の表面は赤錆 で覆われた状態になります。 環境の腐食性をモニタリングする ためには、腐食が起きると流れる電 性能評価の基準化が挙げられます。 現状、防食ふたの性能確認の方法 は各メーカーで異なるため、自治体 が積極採用するに至っていません。 ▲ACMセンサ ▲ACMセンサで計測した腐食電流と結露の関係 結露の発生が腐食に影響 測定時期:夏期、平均硫化水素濃度:3.2ppm 腐食電流 経過日数 0.0001 0.001 0.01 0.1 1 10 100 500 0 1 2 3 4 5 6 7 400 300 200 100 0 ppm 結露なし 結露なし 結露あり 硫化水素濃度 腐食電流( ㎂) 硫化水素濃度( ) 腐食電流( ㎂) 硫化水素濃度( )

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